Komaki Distillery

MESSAGE

境界を越え、未来を見つめる──小牧蒸溜所

1909年に鹿児島の地で創業した小牧醸造。世紀をまたいで受け継いだ正統な技に加え、時代ごとの食のトレンドやライフスタイルの変化を敏感に捉えながら、柔軟な感覚で常に新しいものづくりに挑戦してきました。

さまざまな制約からようやく解放されたいま、人々は改めて自分の足元を見つめ直し、より自由気ままに過ごしたいという気風も高まっています。私たちも酒蔵として、先入観にとらわれず、境界を超えた新しいプロダクトの開発ができないだろうかと考え始めています。

鹿児島の豊かな自然、本格焼酎づくりで培った蒸留技術を存分に生かしながら、今の時代を象徴する酒を開発する研究の場として「小牧蒸溜所」をオープンします。

PURPOSE

焼酎蔵がウイスキーをつくる理由。

なぜ伝統のさつま焼酎を手掛けてきた酒蔵が、ウイスキーづくりに取り組む必要があるのか。そう疑問をいだく方もいるでしょう。

一つは、小牧蒸溜所の母体となる小牧醸造に、革新を起こし、常に前進していく気質があるからです。歴史を紐解くと、すぐ脇を流れる川内川の氾濫で蔵が流され、大事に育てた蒸溜酒や大切な酒づくりの道具を失ってしまったことが何度もあります。そんなときも、ひとつ先にある世界を目指すことで、大切な仲間や地域の方々の協力を仰ぎながら、その都度再建を試み、現在に至ります。

パンデミックによって、私たちの酒づくりも一度は低迷しましたが、解放されたいまこそ新しいものにトライする好機だと捉えています。また、鹿児島は、九州本土の南端にある土地ながら、昔から外の世界に積極的に目を向け、グローバルな感覚にあふれています。私たちも、日本固有の本格焼酎で培った酒づくり文化を、ウイスキーという世界の共通言語に形を変え、もっとたくさんの人々と触れ合っていきたいのです。

BACKGROUND

1909年創業の老舗が培った知と技。

小牧蒸溜所の母体は、鹿児島の本格焼酎を作る小牧醸造です。小牧家は16世紀から続く地元の旧家で、味噌や醤油、茶など、さまざまな分野の製造業にたずさわってきました。焼酎づくりは、初代小牧伊勢吉が杜氏1名、蔵子3名を引き連れ、1909年に開始。以来、鹿児島の豊かな自然が生むさつま芋と米、蔵のすぐ脇を流れる川内川の清らかな伏流水を原料に、伝統焼酎の「伊勢吉どん」や「小牧」のほか、甘くフローラルなテイストの「紅小牧」、すっきりとした柑橘系の香り漂う「一尚ブロンズ」などを手がけてきました。

日本人としての細やかで丁寧なものづくりの態度。自然に畏敬と感謝の念を抱き、共生していく思想。身近なものと手を取り、ともに生きていく思いやりの姿勢。私たちは、決して大きいと言える酒蔵ではありませんが、小規模だからこそ大切に守り、培ってきた確かな技と知識。そして全員が一丸となって未来を切り拓くたくましい精神があります。

現在、小牧蒸溜所では、ウイスキーの開発とともに、各方面からの協力要請を受け、ほかの酒づくりの現場の連携や国外の技術開発支援も積極的に行っています。

MATERIAL

日本初の屋久杉樽による熟成

KEY MALT/原酒

国産ウイスキーとしては初めて、原酒樽に鹿児島県・屋久島で育った屋久杉を採用しました。屋久島は雨量が多く、酸素がたっぷりと詰まった新鮮な水に恵まれた場所ですが、一方で硬い花崗岩に覆われているため、土壌の栄養分は少なく、木の成長がとてもゆっくりとしていることで知られています。こうした環境のなかで育つ屋久杉は、木目がびっしりと詰まった幹は硬く、油分も多いため、病害虫に強く、腐りにくいのが特徴です。

さらに原料となる大麦(モルト)は、国内外のさまざまな品種も厳選し、屋久杉樽で熟成した原酒とバランスをとりながら調合。奥深く、幅の広い味わいを引き出しています。

BREWING WATER/仕込み水

ウイスキーの命と言われる仕込み水には、紫尾山系の天然伏流水を使用。この天然水は蔵のすぐ脇を流れる川内川をつたい、東シナ海へと注いでいますが、川のところどころには特徴的なかたちをした「カワゴケソウ」という水草が見られます。実はこのカワゴケソウ、極めて水質の良い清流の緩やかな流れにしか生息しないとても繊細な植物で、国内では見られるのは鹿児島県の川内川と天降川だけ。天然記念物に指定されるとても希少なものです。

小牧蒸溜所は、自身が所有する山から直接伏流水を蔵まで引き込んで使っています。

YEAST/酵母

ウイスキーの原料となる穀物をアルコール発酵させるために必要なのが、酵母の存在です。小牧蒸溜所では、蒸溜酒酵母とビール酵母(小牧醸造の本格焼酎「一尚」に使用する「ヴァーヴァリアンヴァイツェン酵母」)を適正にブレンド。奥行きのある風味と香りを目指しています。

*ウイスキーの完成は2026年を目指しております。

PROCESS

幕末の石蔵が、味わいを引き立たせる。

DISTILLATION/蒸溜

麦芽の粉砕手法や糖化の工程に独自の観点を取り入れつつ、もろみの熟成には本格焼酎で培ったノウハウを応用しています。蒸溜には、3基の蒸溜器(銅窯ポットスチール、ストレート型/6t基、同バルジ型/4t×1基。銅とステンレスのハイブリッドポットスチール1基)をオリジナルで設計しました。それぞれ違う酒質を成す3種類の原酒をブレンドしながら、さらに複雑みのある味わいを作り出すことができます。

MATURATION/熟成

原酒が持つ個性と特徴を引き出し、よりよい品質と味わいを求めていく。そのために必要な工程がマチュレーションです。小牧蒸溜所では、小牧醸造の創業以前、幕末期の1800年代後半に建てられた石蔵(鹿児島県重要指定文化財申請中)で貯蔵します。この石蔵を覆う外壁には、希少な加治木石が使われています。加治木石とは、およそ60万年前に噴出した火砕流の擬灰岩で、硬質で堅牢性が高い一方で、多くの気泡を持つため熱を伝えにくく、断熱性・保湿性に優れ、内部の温度、湿度を一定に保つ効果があるという、天然の省エネ石材。これにより、さらに原酒は円熟味を増していきます。

ENVIRONMENT

守りたいのは、豊かな環境。

小牧蒸溜所は、霊峰・紫尾山を北方にのぞむ、鹿児島県さつま町に位置しています。四方を山々に囲まれた盆地のため、夏は蒸し暑く、冬には雪が積もることも。朝晩の寒暖差も激しく、1年の3分の1は一帯に霧が立ち込めた幻想的な風景が広がります。蔵の裏手を流れる川内川では、毎年5月になると無数のホタルが舞い、その姿を棹差し舟の上から鑑賞することもできます。

こうした環境のもと、伝統を培ってきたことから、本格焼酎製造業においても昔からものの大事さを考え、焼酎瓶の再利用や焼酎粕の飼料、肥料化などに取り組んでまいりました。ウイスキー製造においては、排水処理設備を新設。仕込み水の再利用やモルト原料の再利用など取り組み、豊かな自然とともに暮らしと仕事を重ねていきたいと考えています。

MEMBER

3代目小牧伊勢吉

1978年鹿児島県生まれ。2000年小牧醸造入社。2009年五代目社長の兄・一徳とともに芋焼酎「一尚」を発売。2011年専務取締役に就任。2016年杜氏として製造部門を担当し、2017年4月に三代目「小牧伊勢吉」を襲名。2026年に小牧蒸溜所初のウイスキー販売を目指す。

長嶋りかこ/VILLAGE

1980年茨城県生まれ。武蔵野美術大学卒業後、2014年からvillage®設立。アイデンティティデザイン、サイン計画、ブックデザイン、空間構成など、グラフィックデザインを基軸としながら活動。主な仕事に「ポーラ美術館」のVI計画のリデザイン、「札幌国際芸術祭2014」「ベネチアビエンナーレ建築展2020日本館」のデザインなど。小牧蒸溜所では、CI、VIのほか、ウェブサイト、広告宣伝物のディレクションを行う。

TIMBER CREW

木の個性を最大限に引き出すことを目指す、東京都調布市の建材メーカー。フローリングや突板、不燃木材を販売する一方で、貴重な樹種、木材工場から出た端材を用いたオリジナルプロダクトの製造も行う。小牧蒸溜所では、屋久杉を用いたテイスティングテーブルの製作を担当した。

大久保篤志

1955年北海道生まれ。アパレルメーカーを経て、雑誌『Popeye』『an an』のスタイリストに。俳優やミュージシャンのスタイリング、広告、CFなどにも携わる一方で、自身のブランドThe Stylist Japanを設立する。小牧蒸溜所では、ユニフォームのデザインを担当。

猪飼尚司

大学でジャーナリズムを専攻後、渡仏。帰国後、フリーランスでデザイン、アート、建築を中心とした編集、執筆を行う。デザイン、建築、アート、工芸を中心に、『Pen』『Casa BRUTUS』などで執筆。取材を行い、企業コンサルティングや展覧会の企画なども手がける。主な仕事に中川正子写真集「Rippling」「An Ordinary Day」、皆川明「ああるとのカケラ」の編集。セシリエ・マンツ展「TRANSPOSE」ディレクションなど。小牧蒸溜所のコピーライティングを担当する。