屋久杉がつくる、唯一無二の味わい。
小牧蒸溜所がある鹿児島県さつま町の南、大隈海峡の先にある屋久島は、豊かな自然が残る場所として、1993年に白神山地とともに日本で初めて世界自然遺産に登録されたことで広く知られています。
屋久島は、島全体が大きな山のように盛り上がったかたちをしています。平地と山頂では2000メートルほどの高低差があるため気温差が著しく、人里は平均気温20度という亜熱帯にも関わらず、山に登ると一気に亜寒帯の気候に。さらにその山々に島に周囲を流れる暖かい黒潮がぶつかることで雨雲が発生しやすく、屋久島の天気が一年のうち半分以上は雨の日が続くのもそのため。こうした特殊な風土が、屋久島の稀有な自然環境と独自の生態系を作り出しているのです。
なかでも、もっとも特徴的なのが屋久杉です。「縄文杉」「紀元杉」をはじめ、樹齢1000年を超える巨木が残る屋久の森はとても美しく幻想的なのですが、森のなかでじっと時間を過ごしていると、「本来の地球はこういう姿だったのではないか」と、心を揺り動かされる瞬間があります。
堅い岩盤に必死に根をはり、厳しい雨風に耐えながら、ゆっくりと育った屋久杉は、細かく入り組んだ木目にその生き様を映し出しています。環境保全のために現在は切り出すことが叶わなくなりましたが、かつて屋久杉はその堅牢さと抗菌性の高さから建材としても活用されていたもの。
小牧蒸溜所では、土埋木(どまいぼく:江戸時代に伐採されたものの、搬出されず森に残っていた屋久杉)を管理する屋久島の工房との協力のもと、貴重な屋久杉をセレクト。ウイスキーとしては初となる、屋久杉を用いた原酒樽による熟成をはじめました。
個性豊かな屋久杉が、香味と円熟さを加味。華やかでありながら複雑な奥行きを持つウイスキーの完成を目指しています。
Text: 猪飼尚司 / Photo: 白木世志一
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